教育実習は、教員志望者を増やす仕組みになっていない
Published · Jun 7, 2026
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はじめに
教育実習を終えて、教員志望に向かう入口の設計について改めて考えるようになりました。
教員不足や教員採用試験の倍率低下は、よく「教員になった後」の問題として語られます。長時間労働、給与、部活動、保護者対応、業務量の多さなどです。
それらはもちろん大きな問題です。一方で、教員になる前の段階にも、かなり大きな構造的問題があると感じました。
その一つが 教育実習 です。
文部科学省の資料でも、令和7年度採用選考では公立学校教員採用選考試験の全体の採用倍率が 2.9 倍となり、受験者総数も減少していることが示されています。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/senkou/1416039_00013.html
もちろん、採用倍率の低下には、採用者数の増加や既卒受験者の減少など複数の要因があります。教育実習だけで説明できる話ではありません。
この記事では、教育実習を一般企業のインターンと比較しながら、なぜ教員志望者を増やす仕組みになりにくいのかを考えます。
また、私を受け入れてくださった高校には本当に感謝しています。通常業務だけでも忙しい中で、授業見学、指導案の確認、研究授業の講評、生徒との関わり方への助言など、多くの時間を割いていただきました。この記事で書きたいのは、その学校への不満ではなく、受け入れ校の善意と現場の負担に依存している制度全体への違和感です。
採用色の強い企業インターンでは、企業が候補者獲得のコストを負う
一般企業のインターンでは、採用色の強いものを中心に、交通費が支給されることがあります。
長期インターンであれば、給与が支払われることも多いです。短期インターンでも、採用や広報を目的にする場合には、企業側が会場、資料、社員の時間、採用広報のコストを負担します。
特にエンジニア職や実務型のインターンでは、2〜3 週間程度の期間であっても、実務に近い開発や研修を行う場合には給与が支払われることがあります。少なくとも、学生が一定期間拘束され、成果物や学習成果を求められるのであれば、企業側がその時間に対して報酬や交通費を用意する発想があります。
これは当然といえば当然です。
採用色の強い企業インターンは、学生に仕事を体験してもらう場であると同時に、将来の採用候補者と接点を持つための投資です。
つまり、企業側には次のような発想が生まれやすいです。
- 候補者に来てもらうために交通費を出す
- 長期間働いてもらうなら報酬を払う
- 社員の時間を使ってでも、将来の採用につなげる
- 学生に「この会社で働くイメージ」を持ってもらう
一般企業のインターンにも問題はあります。すべての企業が理想的というわけではありません。
それでも、採用につなげたい企業ほど、インターン生を「将来一緒に働くかもしれない人」として扱う構造があります。
教育実習では、実習生が参加コストを負う
教育実習では、この構図がかなり逆転しているように見えます。
教育実習は多くの場合、2 週間から 3 週間程度行われます。期間だけを見ると、一般企業の短期から中期のインターンと比較できる長さです。
まず、実習に参加するために、教材費や実習費のような名目で学生側がお金を払うことがあります。
一般企業に置き換えると、インターンに参加する学生に対して、企業が「教材費」や「受け入れ費」を請求しているようなものです。
もし一般企業が、
うちのインターンに参加したいなら、参加費を払ってください。
と言ったら、かなり違和感を持たれると思います。
さらに、教育実習では交通費や宿泊費も基本的に自己負担です。
母校実習が前提になっている場合、実家から通える人はまだしも、大学進学で地元を離れている人にとっては、移動費や滞在費がかなり重くなります。
採用色の強い企業インターンであれば、交通費支給や宿泊補助が検討される場面でも、教育実習では「実習生側が負担するもの」として扱われやすい。たとえば、大学進学で地元を離れた学生が母校で実習を行う場合、往復の交通費と 2〜3 週間の宿泊費を合わせると数万円規模になることも珍しくありません。
この時点で、教員志望者に対する最初のメッセージはかなり厳しいものになります。
教員になりたいなら、まず自分でお金と時間を負担して、この入口を通ってください。
以下に、採用色の強い企業インターンと教育実習の違いをまとめます。
| 比較軸 | 採用色の強い企業インターン | 教育実習 |
|---|---|---|
| 参加費用 | 参加費なしが一般的 | 実習生が教材費・実習費を払うことがある |
| 交通費 | 支給・補助される場合がある | 自己負担になりやすい |
| 宿泊費 | 遠方参加では補助される場合がある | 自己負担になりやすい |
| 給与 | 長期・実務型では支払われることがある | なし |
| 受け入れ側の採用メリット | 直接的(将来の採用候補) | 限定的(公立は配属次第) |
これは、志願者を増やしたい制度の設計としてはかなり弱いと思います。
実習前の段階でも、入口が狭い
教育実習は、実習が始まる前から難しさがあります。
多くの場合、実習先は母校を中心に探すことになります。しかし、母校だからといって必ず受け入れてもらえるわけではありません。
実際、高校の教育実習募集要項を見ると、母校以外で実習することがかなり難しい構造になっていることが分かります。たとえば、ある高校の教育実習出願条件には、次のような条件が並んでいます。
本校の卒業生であること。
将来,教員になる意志が強固(第一志望)で,教員採用試験を受験する者であること。
原則として在籍する大学に附属高等学校等が設置されていないこと。
実施希望教科の内諾が得られること。
この条件を見ると、教育実習は「どこか受け入れ先を探せばよい」というものではありません。まず卒業生であることが求められ、さらに在籍大学に附属高校等がある場合は母校での実習も原則として難しくなります。そのうえで、希望教科の内諾も必要です。
つまり、学生から見ると、母校以外で自由に実習先を探す余地はかなり小さい一方で、母校側にも複数の条件があります。制度上は実習先を確保すればよいように見えても、実際には「母校で受け入れてもらえるか」「大学附属校に行けるのか」「希望教科の先生がいるのか」という狭い選択肢の中で調整することになります。
まず、母校に実習教科の常勤教員がいなければ、母校での実習ができない場合があります。非常勤講師だけで授業が回っている教科や、担当教員の配置が変わった教科では、学生本人に意欲があっても実習先として成立しません。実際に、私の周囲にもこの条件で実習校が見つかっていない友人がいます。
また、各教科 1 名までしか受け入れないというような定員がある場合、同じ教科で希望者が重なるだけで実習先を確保できなくなります。本人の適性や準備状況とは関係なく、「同じ母校に同じ教科の希望者が複数いる」こと自体が、実習を断られる原因になり得ます。
さらに、大学に附属校がある場合でも、その附属校が教職課程の学生を広く受け入れているとは限りません。内部進学や附属校出身者など、受け入れ対象が限られている場合もあります。それにもかかわらず、母校側から「私立大学に進学しているなら、大学の附属校に実習に行くべきではないか」と言われると、学生側はかなり苦しくなります。実際には附属校という選択肢が開かれていないのに、母校にも受け入れ余地がない、という状態になり得るからです。
もちろん、受け入れ校側に無限の余裕があるわけではありません。指導教員の時間割、授業進度、校内行事、管理職の判断、既存業務との調整などを考えれば、人数制限が必要になる事情も理解できます。
しかし、制度全体として見ると、これは教員志望者を増やしたいという方向性とずれています。
教員になりたい学生がいても、実習先を確保する段階でつまずく。
しかも、その理由が本人の能力や意欲ではなく、受け入れ枠や地理的条件に左右される。
これは採用候補者を増やす仕組みというより、候補者をふるい落とす仕組みに近くなってしまいます。
受け入れ校側にも、受け入れるメリットが小さい
一方で、受け入れ校側の立場を考えると、これもまた構造的に苦しいです。
教育実習生を受け入れても、その実習生が将来その学校の同僚になるとは限りません。公立学校であれば、採用後の配属は自治体の人事によって決まります。私立学校であっても、教育実習がそのまま採用に直結するとは限りません。
つまり、一般企業のインターンのように、
将来の採用候補者を育てるために受け入れる
という直接的なメリットが、受け入れ校には見えにくいのです。
それにもかかわらず、受け入れ校の業務量は確実に増えます。
- 実習生の指導計画を作る
- 授業見学や研究授業の調整をする
- 指導案を確認する
- 実習日誌や記録を確認する
- 研究授業後に講評を行う
- 生徒対応上のリスクにも気を配る
これらはすべて、普段の学校業務に追加されます。
しかし、実習生を受け入れた学校や指導教員に十分な補助や業務軽減があるわけではありません。
受け入れ校から見れば、教育実習は「将来の同僚を採用するための投資」というより、「通常業務に上乗せされる社会的責任」に近いものになっています。
実習生側も負担が大きい。受け入れ校側も負担が大きい。
それなのに、制度全体としては「教員志望者を増やしたい」と言っている。
ここに大きなねじれがあります。
実習期間中の負荷は、無給インターンとして見ても重い
教育実習期間中の負荷もかなり大きいです。
もちろん、これは私の要領が悪かっただけかもしれません。実習校、教科、担当授業数、校務、研究授業の数によっても違うと思います。
そのうえで、私の場合、実習期間中に定時で帰れた日は 1、2 回程度でした。多くの日は 1〜2 時間ほど残り、その後も自宅で 2 時間ほど指導案や教材準備、実習日誌などの作業をしていました。
学校現場を知るという意味では、確かに学びは多かったです。現場の先生方がどれだけ多くのことを同時に抱えているのかも、実際に見なければ分からなかったと思います。
ただ、一般企業のインターンとして考えると、これはかなり重いです。
参加費に近い費用を払い、交通費や宿泊費も自己負担し、給与はなく、実習中は長時間拘束され、帰宅後にも作業が発生する。
これを一般企業がやった場合、「かなり危ういインターン」と見られるのではないでしょうか。
それでも教育実習の場合は、「教員になるために必要な経験」として受け入れられています。
ここに、教職課程の入口が長い間、買い手市場的な発想のまま残っているように感じます。
教育実習を通らなければ、教員にはほぼなれない
一般企業のインターンであれば、相性が悪ければ参加しないという選択ができます。
インターンに行かなくても、通常の選考で応募できる企業は多いです。インターン経由の早期選考が有利になることはあっても、インターンが唯一の入口ではない場合が多いです。
しかし教員の場合、教育実習は教員免許取得の過程で避けて通りにくいものです。
つまり、教育実習は単なる体験プログラムではありません。
教員になるための実質的なゲートです。
そのゲートが、
- 参加側に費用負担を求める
- 交通費や宿泊費を支給しない
- 実習先確保の不確実性がある
- 無給で長時間の準備を求める
- 受け入れ校側にも十分な補助がない
という形になっている。
一般企業でたとえるなら、
採用にはインターン参加がほぼ必須です。ただし、参加費を払ってください。交通費も宿泊費も自己負担です。給与はありません。受け入れ側にも十分な補助はありません。
という状態です。
これで志願者が増えると考えるのは、かなり難しいと思います。
なぜ改善が難しいのか
この問題は、単に「教育実習をもっと良くしよう」と言えば解決するものではないと思います。
改善が難しい理由は、負担が複数の主体に分散しているからです。
学生は費用と時間を負担しています。
大学は実習先を確保し、教職課程を運営する責任を負っています。
受け入れ校は、通常業務に加えて実習生を指導しています。
教育委員会や国は、教員志望者を増やしたい一方で、すべての実習生に交通費、宿泊費、受け入れ校補助を出すには予算が必要です。
そして学校現場は、すでに人手不足です。
人手不足だから教員志望者を増やしたい。しかし、人手不足だから実習生を受け入れる余裕も小さい。受け入れ余裕が小さいから実習の入口が狭くなり、入口が狭いから志望者が増えにくい。
この循環がかなり厳しいです。
さらに、母校実習を中心にする運用は、現実的な調整コストを下げる面があります。大学が全国の学校と個別に実習先を調整するより、学生が母校に依頼するほうが動きやすい場面もあるでしょう。
しかし、その便利さは学生側の地理的・経済的負担によって支えられています。
制度全体で見ると、コストが消えているのではなく、学生と受け入れ校に押し出されているだけです。
本当に志願者を増やしたいなら、入口への投資が必要
教員志望者を増やしたいのであれば、採用試験の早期化や説明会だけでは足りないと思います。
教員になる前の入口そのものを、候補者にとって合理的なものにする必要があります。
たとえば、次のような改善が必要ではないでしょうか。
- 教育実習生への交通費補助
- 遠方実習が必要な学生への宿泊費補助
- 教材費や実習費の透明化、減免、廃止
- 受け入れ校への補助金や業務軽減
- 指導教員の持ち時間や校務分掌への配慮
- 母校以外でも実習しやすい広域マッチング
- 実習前の教材研究や指導案作成を支える共通教材
- 実習生を受け入れる学校が損をしない制度設計
重要なのは、教育実習を「学生が教員になるために耐えるもの」として扱わないことです。
むしろ、教育実習は教員志望者にとって、学校現場と出会う最初の大きな接点です。
そこで受け取るメッセージは、その後の進路選択に大きく影響します。
もし最初の接点が、
お金も時間も自己負担で、現場にも余裕がなく、それでも教員になりたい人だけ来てください。
というものになっているなら、教員志望に向かう気持ちを支えにくいのは自然です。
おわりに
教育実習には大きな意味があります。
実際に授業をし、生徒と関わり、学校の一日を体験しなければ分からないことは多いです。私自身、教育実習で得たものはありました。
ただ、その価値と、制度としての負担設計は分けて考える必要があります。教育実習が重要だからこそ、実習生の自己負担と受け入れ校の善意に依存し続けるべきではないと思います。
教員になろうとする人が最初に触れる入口が「来たければ自分でコストを払え」というメッセージになっているとき、志望意欲を支えにくくなります。志望者を増やしたいなら、試す仕組みではなく、迎える仕組みへの転換が必要です。
